現状維持バイアス
何かに囚われてしまうと、
なかなか現状を脱出することができない。
サーカスで飼われている象が典型的な例。
子供の頃に連れられてきて、
足をチェーンで縛られる子象。
初めは暴れ回り、チェーンを切ろうとする。
ところがまったく足から離れないチェーン。
数日経つうちに、チェーンを切ることを諦めていく。
そしてついに逃げ出すことすら考えなくなる。
子供像は数年もすれば立派な象に成長する。
象は地上で一番の力持ち。
チェーンの一本や二本、
簡単に切れるはずである。
サバンナの大木を一瞬で折ってしまう怪力の持ち主だから。
ところが子供の頃に諦めを覚えた象は
簡単に切ることができるチェーンを外そうともしない。
サーカス小屋の外で大人しく飼われている。
哀れな姿である。
覚えた感覚はなかなか抜けない。
現状維持バイアスの囚人の出来上がり。
塾の場合
子象の躓き
小さい頃から塾に通う子供がいる。
小学校の入学式が終わると
両親に連れられて入塾の手続き。
テストを受けさせられて、
よくわからないまま教室に放り込まれてしまう。
この歳にして弱肉強食の世界に置き去りにされる。
教室には親に教育された
ソフトバンク製のペッパーや
ホンダ製のアシモが座っている。
そんなコンピュータ人間が子象の相手になる。
初めて塾内テストを受験。
すると、とんでもない成績が。
当然、ペッパーやアシモに勝てるはずもなく、
最下位を甘んじて享受することに。
小さな心に劣等感が生まれる瞬間。
家に帰っても両親の落ち込みぶりは
半端ではない。
有名私立中学に入学させることを夢見ていた両親は
子供に厳しい叱責の嵐。
テストで点を取ることだけが
人生の価値だと勘違いしていく。
進学塾と子象
子象が高学年になる頃になると
進学塾に転塾をすることに。
当然如く、入塾テストでは
いつもの調子を発揮して
下のクラスに。
この頃になると
体は立派に成長している。
この子象、今までたくさんお勉強をしてきた甲斐があり
授業中では的を射た発言をして先生に期待される。
職員室でも子象の話が出てくる。
「あの子はなかなか賢い」
「塾に慣れてくるとすぐにクラスは上がるでしょう」
ところが何ヶ月経っても最下位クラスから
脱出できない。
有り余る力を発揮すれば
もっと上位クラスで活躍できるはずなのに。
奇行の始まり
入塾して半年もすると子象の奇行が始まる。
簡単に外すことができるチェーンを
切ろうという努力を放棄。
少し自信を持ってテストに臨めば
かなり良い成績が取れるのにである。
ある時、子象、
トイレに行きたいと授業中に席を立つ。
いくら、待てども帰ってこない。
いい加減、心配にはなるが、
流石にトイレを覗くわけにいかず。
気づいて時計を見ると一時間が経過。
教室の子供は平然と
「学校でもよく篭っているよ」
教室のスタッフが様子を伺いに
何度もトイレに行くが
お腹が痛いの連呼。
そのうち塾に来るたびに
トイレに。
授業の前にトイレに篭り
籠城を始める。
ひどい時には
1分も授業に参加せずに
帰ることも。
家に連絡するも梨の礫。
家でも放置されているようだ。
子象をいじくり回すだけいじくり回して、
思うように動かないとなると
チェーンをつけたまま放置。
とんでもない飼い主である。
下位クラスの英雄
この子象、最下位シートをしっかり死守。
テストの度に席替えをするが
いつも定位置に座っている。
コロナ禍で生徒数が減っている塾の
しんがりを任された子象。
ピラミッドの底辺で塾の経済をしっかり支えている。
トイレに篭ろうが、ズル休みしようが
授業中に居眠りをしようが、
きっちり授業料を納めている。
ほとんど参加しなかった講習代も
きちんと寄付している。
こんなに寄付をすれば、
社長から感謝状が送られる日も近い。
こんなに塾を愛している生徒はいないのだから。