ゴルフ徒然
ゴルフ狂の詩
先生

瞳の輝き 小話 63

大人の夏休み

去年の今頃のこと。
15時が基準時間になっていた。

東京の感染者数が発表される時間。
テレビをつけて感染者の人数を確認。

ワクワクとは不謹慎ではあるが、
似たような心模様があったのを思い出す。

人数が多くなれば不気味な気持ちになりながらも
目を離すことができない。

台風が来て内心はビクビクしながらも
外の景色を思わず眺めてしまう心境に似ている。

毎日が台風だった去年。

仕事を長期に離れて、
自分の時間をふんだんに与えられて
時間を持て余していた。

幼少期の夏休みに感じた感覚。

毎日蝉を取りに行く。
夏休みの日課になった。

初めの興奮は消えて無くなり
惰性で蝉を捕まえる。
永遠を感じる夏休み。

時間は有り余り、
家にいてもやることがない。

早く学校に行きたい。
退屈な日々から解放されたい。

まさかこの歳になって味わうなんて
夢にも思わなかった。

瞳の輝き

長い休養から社会が解放されて
授業が再開される。

久々に教壇に立って教室を見回す。
コロナ疲れしたはずの生徒の瞳はキラキラ。

家でのzoom授業に飽き飽きしているようだった。

「家より教室がいい」
「画面の先生より、生の先生がいい」

嬉しいコメント。

ありがたい。

元気を注入され、やる気が充填される。
にんにく注射を打った時よりいい感じ。

そのクラスとも
今は一年半の付き合いに。
彼らはもう受験学年である。

苦難を共に過ごしてきた戦友たち。

昨日、授業でも息がぴったり合う。
学習内容がスムーズに進む。

たまに、
「先生、俺は今日から静かに頑張る条約を結びました」
「誰と?」
「自分と」
すかさず女の子が
「それは誓いだよ」

男子のトンチンカンな発言に
あはあはと教室に響く笑い声。

でも、一旦問題を解き始めると
真剣に取り組んでいる。
鉛筆のカリカリが今度は教室に響く。

活気にみなぎる教室である。

例年、夏期講習は疲れが溜まり、
生徒も先生もぐったりしている。

様子を見かねた保護者が
栄養剤の差し入れがあるぐらい。
ファイト、一発!

今年の6年生は一味違う。
苦難の中、逞しくなったようだ。
一皮剥けた彼らはなかなかの強者に。
充実した時間を共有できている。

授業が終わり、教室を後にすると、
オーケストラの指揮者になった気分。

最高の演奏を終えて
拍手の渦に包まれながら
指揮者台を降りてくる。

講師になってよかった思えるひと時である。