合格体験記って本当?
難関資格試験の勉強を始めてから、いろいろな合格体験記を目にした。
合格するための勉強の仕方、合格マインドの育て方といった類の話が多い。
直感的に綺麗事を語っているように思える。
私は根本からひねくれ者である。
受験指導の現場に長い間、身を置いてきた。
確かにストイックに勉強して合格する生徒もいるのはいる。
だが大半の生徒はなかなか変わらない性格と相談しながら、合格を目指す。
努力できない性格の鎖に繋がれている。
そんな現実と戦いながら自分なりの頂上を目指している。
綺麗ごと大好き合格者
1日8時間以上も勉強して、晴れやかに合格する生徒はほとんど見たことがない。
親の強力な援助を得られた
好きな先生との出会いをきっかけに勉強するモチベーションが上がった
ある境遇で周囲を見返すモチベーションを得た
ライバルに恵まれて頑張った
外界からもたらされる運で勉強をするきっかけをつかむことが多い。
純粋に勉強の中からモチベーションを見つけるのは困難だ。
ほとんどの生徒が変え難い現実にもがきながら、
なんとか一歩前に足を出す。
あゆみを積み重ねていく。
そこに人間らしさが見える。
その姿に胸が
じーん
とする。
ところがYouTubeを見ていると、一部の資格試験合格者が声高に成功体験を述べている。
彼らの語る正しいお説教に頭の中が
じーん
と痺れてくる。
たったの7ヶ月で合格した
延べ5000時間以上勉強した。
1日10時間以上勉強した
自習室にずっとこもっていた
趣味を捨てた
彼女と別れた
彼氏を振った
友達と縁を切った
仕事を辞めた
風呂で勉強した……etc
ストイック系のスーパーマン語録が踊っている。
テレビ企画、THE ガマンですか?
え、AIの推薦勉強方法ですか?
合格体験記の美談
塾の合格体験記でもそうだが、美談ばかりを述べる。
苦労して克服した話
成績が良くなる勉強法
協力してもらった家族の話
塾の友達に対する感謝
読みながら、
(え、君そんな良い子ちゃんだったけ?)
(周りに迷惑ばかりかけてたよね)
保護者の受験体験記もそうである。
自分たちが工夫したこと
子供との二人三脚
どのように子供が成長したか
合格のときの喜び
先生へのお礼
呆れて突っ込む
(いつも、子供の愚痴とクレームばかり言ってたやん。)
こんな類のものを読んでも受験生には何の役にも立たない。
これは合格に恵まれた幸運な人たちの日記なのである。
はたまた、塾の営業ツールか。
散っていった同志たち
合格者の影には大量の不合格体験がある。
不合格者の涙に真実がある。
語られることのない胸の内。
不合格者の中に本当に良い子が多い。
良い子が悔し涙を流すのである。
もう何千人と見てきた。
その子供が振り絞って発する最後の言葉。
「先生、お世話になりました。先生の授業、楽しかった。
本当にありがとうございました」
毎年、気の利いた言葉のプレゼントができない辛い瞬間である。
裸の王様
YouTubeに投稿してくれる成功者の情報には貴重なものがあるのは認める。
でもそれはやはり正しいだけ。
正しさは時に人を傷つける。
正しいことを声高に叫んで宿題がてきなかった子供を叱り飛ばす大人を何人見てきたか。
そんな大人のエールは苦しんでいる子供にはただの迷惑。
壁の前で立ちすくむ人のどうにもならない自分を冷静に語っている言葉に耳を傾けたい。
あまりにも成功者、合格者を持ち上げすぎている。
彼らはほんのちょっと一般の人と違った
特殊な才能と幸運なきっかけ
を持っていただけ。
1日8時間も机の前に座れる才能
部屋にこもれる才能
嫌なことを我慢できる才能
風呂で勉強できる才能?
尊敬できる先生
隣でたまたま座っていたライバル
心優しき理解者
自分らしく行こう
私はひねくれ者なのか、
綺麗事大好き合格者の言うことは信用しない。
頂上に行くルート、他にないの?
「断崖絶壁、THEガマンルート以外でも合格を目指せるはずなんだけどなあ」
と過去の受験指導の経験がそうつぶやく。
1日に1時間から2時間の勉強で合格できないか。
仕事をしながら趣味も楽しみながら合格ができないものなのか。
まだ合格していない私が偉そうなことを言うのもなんだが
長い資格試験、今を大切にしながらマイペースでいこう。
下を向いて足を前にさえ出しておけば自分なりの頂上にいつか着くって。