ゴルフ徒然
ゴルフ狂の詩
ライター

違和感 小話39

刺激的な動画

YouTubeで有益な情報を知る機会に恵まれた。
どんなものを食べたら健康になるか、
どんな日常生活を送れば健康になるのかなど
健康に関する情報を得ることができる。
お陰でここのところ、すこぶる体調が良い。

味を占めて、他の動画も覗くようになった。
特に事業で失敗してる私にとっては
お金に関する動画は刺激的。

今までお金についてほとんど考えたことがない。

とりあえず働いて税金を納め、
保険料を納め、
そして生活費を賄えば
それでいいと思っていた。

経済的自由

ところが何も考えずにただ働いてただ支払いを
続けていくことによってだけでは
確かに経済的自由を得る事はできない。

考えてみればそうなのである。
何も考えずにただ支払っていれば、
労働からしか収入が得られない。
そこに理性が入らなければ
労働からの解放はない。

経済的自由を手に入れさえすれば
実際働かなくても良いのである。
お金のために働く苦痛を今まで
嫌というほど味わった。

労働の為に自分が本当にやりたいことができない。
経済的自由を手に入れて
自由な時間を手に入れる。
その先に、充実した人生が待っている。

経済的自由を手に入れるために
何ヶ月間かさまざまな動画を視聴した。

貯める力をつける系。
稼ぐ力をつけていく系。
さらに余った資金を増やす系。

経済的自由を達成していく有益な話。
魅力のあるコンテンツに一時夢中になった。

経済的自由が手に入れば自由時間が増え
自分の好きなことができるようになる。
本当は楽しいことなのである。
妄想が妄想を呼んでくる。

情緒

ところがこのような動画を見ていると
心が渇く。

本当に自分のしたいことができるはずなのに、
前進すればするほどなぜか心が乾いてくる。
これは塾で勉強を教えている時に感じる
渇きと似ている。

ある随筆が蘇る。

偉大な数学者である岡潔氏が執筆した

「春宵十話」

未来の人の不幸を憂いて書かれた随筆。

20年かけて世界最高峰の難問に挑み続け、
ついにその頂に輝かし功績を打ち立てた
人物の力強い言葉が収められている。

論理的な世界に身を置く数学者が唱える幸福論。
その数学者が得た人生訓がまとめられている。

「情緒が人の中心にある」
「情緒の中心のバランスが損なわれると人の心は腐敗する」
「情緒の中心こそ人間の表玄関なのである」

人の中心が情緒だとは興味深い。
彼の人生の哲学の中心に情緒がある。
宗教家や文学者からよく聞く言葉だが、
数学者の口から出てきたところが興味深い。

理性の前に情緒が存在する。
純粋直感によって情緒は熟成していく。
悲しみの感情が人を育てる。
感情を抜きに人生は考えられないようだ。

人間らしさ

お金について。
勉強について。

論理的に考えれば
youTuber、先生の言う通りである。

しっかり貯めて、しっかり稼ぎ、しっかり投資する。
しっかり聞いて、しっかり復習、しっかり宿題する。

ごもっともである。

しかし、この手の話には何かが抜け落ちている。
発言している彼らに
何かが抜け落ちているのを直感は見落とさない。

なんともならないものに対する
悲哀かもしれない。

人間らしさへの配慮があれば。

近頃は
「〇〇すれば簡単に月100万円」
「〇〇で簡単に稼げる」
といったタイトルの本が書店の平積みに踊っている。

岡氏がこの光景を見ればどう思うのだろうか。

論理的に動けば動くほど情緒は後ろへ下がる。
全てがうまくいくように思えるのだが、
直感的に何かが間違っていると感じる。
その違和感が善良な心にはつきまとうようだ。

人間はやはり理性だけで生きるようにできていない。
自然と出てくる情緒や直感といったものに頼らないと
人生の深淵には辿り着けないのかもしれない。