ゴルフ徒然
ゴルフ狂の詩
ライター

新参者 小話35

理想の私

「こだわり」を持って生きたい。
他人の目を気にせず己が目指す道のみを堂々と生きる。
派手を好まず質素に暮らす。
お茶目なところもあり憎めない。
こんな男がいい。
理想の姿である。

東野圭吾作品に登場する加賀恭一郎に惹かれる。
真実を徹底的に追求する姿勢。
真実へのこだわり。
過去の癒えない傷。
その悲しみから生まれる優しさ。
自分の理想を形にしたような男だ。

理想の姿を実現するのは難しい。
しかし今は独り身。
一人であるからこそ己の道を気にせず進める。

独り身であるのは強み。
一人は「こだわり」を持った人間になるための土壌。

水分を制限されたトマトが痩せた土地で甘みを宿していく姿だ。
酸味がアクセントになり、熟していく。

人間も同じように成熟していく。

私の体を作るもの

東京に来てからは外食である。
一時期自分で調理をする楽しさを覚えたこともあったが、時間が膨大にかかることで自炊を諦めた。
本当にやりたいことに時間を集約することに。
ライターとしての腕を上げること。
試験を突破すること。
忙しい。

選択肢が多いと疲れる。国語の問題でも選択肢が多いと教えていてもうんざりする。
毎日の食べ物を選ぶだけで脳が悲鳴をあげる。
そこで、外食で使うお店も食べるものもほぼ自動化した。
選ぶ手間を省いた。
一人というのは気楽に見えて、意外に選択が多いのだ。

食べたものが自分の体を作っている。
その通りだ。
良いものを食べると良い体になる。
体の良し悪しは食べ物で決まる。

食べ物を外食に頼る私の体は

大戸屋と
やよい軒と
餃子の王将と
和食ダイニング天狗と
ときわ食堂と
時々いきなりステーキ

に体を委ねている。
良い体になっているかは・・・・・・
微妙である。

初めて東京に研修に来た時、何故かふらっと遊びに来たのが巣鴨。
渋谷でもなく原宿でもなく、池袋でもなく巣鴨。
それから三年。
今では職場に。
不思議な縁である。

ときわ食堂

その私の体を作っている「ときわ食堂」は巣鴨商店街の中にある食堂。
昔ながらの雰囲気の良い食堂である。

週2回利用する。
オススメがヒレカツである。
上州産ポークを使用した肉厚のかつ。
とても柔らかい。
とんかつ好きの私にとってはたまらない一品である。
追加でポテトサラダも。
店主、こだわりの一品。
毎日、店で仕込んでいるようだ。
かなりの美味である。

厨房の見える壁の上にはオススメの食材が並ぶ。
魚料理が中心だ。
店主が自ら河岸に出向いて魚を仕入れるようだ。
その時に仕入れる旬の魚料理が黒板に記される。
どれも魅惑的である。

古い建物だが、店の中はきれいに保たれている。
掃除が行き届いていて気持ちがいい。
食事を運んでくれるお兄さんお姉さんも笑顔。
お茶、お水を気をタイミングよく用意してくれる。
気が利いている。
憩いのひと時である。

食材にこだわり、味にこだわり、丁寧に配膳してくれる。
こういう食堂が本当に少なくなった。
昔は街の中いたるところにこういった食堂が軒を連ねていた。
ところがファーストフード店が幅を聞かせるようになった現在ではこういう食堂が本当に見つからない。

巣鴨商店街を歩いて
ときわ食堂で「こだわり」を食する時間は、
加賀恭一郎を感じる瞬間である。

かなり貴重な食堂なのである。