受験失敗
今では偉そうに受験について語っている私は
中学受験を失敗している。
何をやるのも遅くてよく怒られた。
学校でも体操服や水着の着替えは
クラスでいつもビリ。
書道や図工の片付けも
熾烈な最下位争いを繰り広げていた。
ただ、給食を食べるのだけは早かった。
塾通い
そんな何をするのも
遅い私が塾に通うようになったのは４年性の時。
３年生の終わり頃からあちらこちらの入塾テストを受けさせられ、
ひどい点を取るたびに父親に怒られた。
父の怒り方は尋常なものではなく
感情に任せて大声で怒鳴り、
それでも気が済まない時は
きつい折檻を受けた。
今だったら確実に児童相談所のお世話になるレベル。
厳しい時間制限下でのテストではのろまの私は
実力を発揮することも出来ず、
悪い点を重ねていった。
さらにこの当時の進学塾の入塾テストは
学校の内容を無視した
難度の高い問題を平気で出題していた。
知恵のある親なら進学塾のテストを受けさせる前に、
テストを予め入手して自分の子供が出来るのかを把握する。
父親は私が学校でしっかり勉強が出来ていないから
得点できないと勘違いをしたようだ。
私の父親
父親は学歴がないことを
いつもコンプレックスに感じて生きた。
確かに家が貧しく、
学習環境が整っていない家庭だったところは同情できる。
学歴がないことを馬鹿にされた経験から
息子には学歴をつけて欲しいと短絡的に考えたようだ。
その皺寄せが年端もいかない私と弟にきました。
勉強を本格的にやったことのない父にとっては
学びとは趣味の延長のようなもので、
誰でも簡単に取り組めるものだと思っている節があった。
学びの過程には山あり谷ありの
ドラマがあることなど知るよしもない。
彼にとっては結果だけが目に入る
唯一のドラマ。
そのため成績表に対するこだわりは
尋常ではなかった。
大事件
一学期を終えて夏休みを迎える時期。
終業式を終えて教室では新学年の通知表が配られる。
自分でも理由は分からないが
なぜか国語の評価が下がっていた。
家に帰り父に通知表を見せるやいなや
形相が変わり烈火の如く怒り出した。
国語の評価が下がったことが気に入らなかった。
いきなりその通知表を破いてしまった。
当時の通知表はアナログで、
次の始業式の時に保護者がサインをして
返却しなければならない。
一年を通して使用されるので、
無くしてしまうと前学期のデータがわからなくなってしまう。
その大切な通知表を破るという前代未聞の愚行に出た。
母親は本当に大変だった。
二学期の始業式の朝に
学校に連絡をして事情を話し、
再発行してもらうようにお願いをしていた。
当然再発行はしてもらったが、
二学期の終業式には摩訶不思議な
一学期の成績やコメントの無い奇妙な通知表を
受け取ることになった。
本当に迷惑な話だ。
二学期の終業式では真っ白で異様な輝きがある
新品の通知表を受け取る。
担任の先生も複雑な表情を浮かべて
私の顔を見つめていた。
周りの生徒はめざとくその通知表を見つけ、
私の周りにわらわら寄ってきて、
根掘り葉掘り質問攻め。
その対応に本当に困った。
本当のことを言う訳にもいかず、
誤魔化すので精一杯。
私の奇行
このような父の異常行動は
私が塾に通いだしてからますますひどくなる一方。
そうこうしているうちに父の異常行動の影響を受け、
私も同時に奇行と思われる行動が目立つようになってきた。
ストレスのせいか気づかないうちにまつ毛や眉毛を抜く毎日。
特にまつ毛は抜いてしまうと表情が一変。
ミニヤンキーの出来上がり。
クラスメイトは驚きながらも
ジロジロ見ているだけ。
帰宅して母に指摘されて鏡の前へ。
言葉が出なかった。
学校にいる時でも
家に帰ってからの父の折檻のことばかりが頭によぎり、
自分の奇行の結果に気づけない。
そんな行動を取る私のことを遠目で見ていて、
気持ち悪がる女の子がいることを知って傷ついた。
気持ち悪がられて当然なのだが。
離婚
結局、父の異常行動に耐えられず、
私の高校卒業と同時に母は離婚。
私もそれに伴い父から離れることができた。
ボロいアパートで弟も含めての３人で暮らし。
その時が本当に幸せだった。
夜がこんなに静かで穏やかなのだということを初めて知った。
私もそうなのですが母も弟も長い間、
父の異常行動の後遺症が残った。
母は夜中にしょっちゅうひきつけを起こしたように
うめくことがありましたし、
弟はいい歳になっても血が出るまで
爪を噛んでいた。
私はというと今でも叩かれた衝撃で耳鳴りが止まず。
授業の現場で
授業をしていると
奇行に走る子供が少なからずいる。
周囲の大人は何かの病名をつけて
彼らの奇行を理解しようとする。
親までがそんな病名を信じて疑おうともしない。
原因を作っているのが親自身だと考えることもなく。
私が過去の父との経験を話すと
自分の家とよく似ていると訴えてくる子供がいる。
そのように訴えてくる子供は
だいたい奇行癖がある。
頭頂部の髪の毛を抜いたり、
眉毛を抜いていたり、
授業中ずっと鼻くそをほじくっていたり、
何かをずっとぶつぶつ言っていたり。
ある訴えてきた子供の話を親身に聞いてあげると、
嬉しそうに苦しい心の内を語ってくれた。
悪い成績が返却される度に夜中までお説教をされ、
徹夜で勉強をさせられる。
寝かせてもらえないそうだ。
そして徹夜の勉強をさせている当の父親は
仕事があるからと言って寝ている。
許せない暴挙。
このような理不尽に父親が厳しい家庭の子供は
例外なく奇行に走る。
そして不幸にも周囲からは「変な子」と言われ、
時には病気扱いされる。
外ではいい友達などできるはずもなく、
家の中にも居場所がない。
彼らを見ていると
昔の自分を見ているようで胸が痛む。
子供が親からの逃げ場所がないことを考えると
父親の理不尽は子供を追い込み、
心を破壊することを覚えておかなくてはならない。
合格どころの話ではないのだ。
