ボーイスカウト
小学校に通っていた頃ボーイスカウトに参加していた時期がありました。母親が近所でボーイスカウトの活動があることを聞きつけてきて、何をするところなのかわからないまま、入隊をさせられました。かっこいい名前の響きから何か楽しいことをするところなんだと勘違いをして、参加初日を楽しみにしていました。
初めてユニフォームに身につけて意気揚々と集合場所に行ってみると、女の子がいない!新しい出会いを期待していた、ませガキの私は衝撃が走りました。女の子に興味がある人間には男だけが群がっている景色はただの地獄絵巻です。呆然としているところに隊長と呼ばれている人が寄ってきて入隊を歓迎されました。あまりのショックに隊長の言葉は覚えていません。
期待外れの活動
そうこうしているうちに、隊長の指示に従って本日の活動を実施するための場所に移動。その場所はある駅の高架下の通路でした。命令された数人の隊員が活動協力をしてくれているカメラ屋から隊員の人数分の箒を借りてきていました。茫然自失の少年の初日の活動は掃除です。午前中から始まり夕方まで掃除をしました。
男しかいないわ、やっていることは朝から晩まで掃除だけだわ、母親を恨みました。なんでこんなところに来なあかんねん。家に帰ってすぐに辞めたいと訴えるも即却下。一旦始めると言ったんだから一年以上はやらないとダメと。心底、後悔したのを覚えています。
そこから毎週週末になると訳の分からない活動に嫌々参加することになりました。ある時は掃除、ある時は登山。ある時は募金活動と。小学校2年生の自分には理解が及ばない活動ばかりでした。
金曜日になると憂鬱になりました。男だけの世界の週末です。女の子のいる学校はパラダイスでした。月曜日になると憂鬱な顔している連中とは裏腹に、月曜日が来るのをどれほど待ち侘びたか。
心に吹く風
そんなボーイスカウトでの活動に転機が訪れたのは半年ぐらいしてのことです。いつも登っている山よりも標高の高い山に登っている時でした。いつもは早く登山を終わらせて帰ることばかり考え、登山中イライラして頂上ばかり眺めていました。ところがその時は疲労で顔を上げるのさえ辛くなり、足下を見ながらなんとか足を前に送り出すのに懸命でした。
そうしていると不思議なことに少しずつ邪念が消えていき、無の境地に入りました。苦しさからも解放されてただ足を前に出していく映像があるだけです。そんな状態が何時間か過ぎた後、気付いたら頂上に立っていました。頂上に吹く風が優しく肌に触れ、心地よかったのをはっきり覚えています。達成感や充実感とは違ったふわっとした心地よさでした。
毎週行う高架下の掃除も、ひたすら箒の先の動きを眺め心を空っぽにして取り組むようになりました。そうすると時間があっという間に過ぎて終了時間に。あの山の頂上で味わった風が心に吹いてきて心地よくなります。そうこうしているうちにボーイスカウトでの活動が日常になっていきました。週末の憂鬱も消えていき、金曜日症候群から解放されました。
下を向いて歩こう
ボーイスカウトの活動から途方もない遠い目標への歩き方を知ることが出来ました。うつむいてただひたすら足を出していく。大学受験も浪人をしながらも周囲から絶対に合格できないと言われ続けた第一志望校へ合格しました。時間はかかるけれどもあきらめず頂上を目指す!そんなマインドを活かして、現在も色々なことにチャレンジ中です。自分のペースを乱さず無心にゴールを目指していきます。
確かにハンターのように合格を短期で刈り取りに行くというやり方もあります。時間を決めて短期間に一気に取り組み、勉強以外を犠牲にして合格を勝ち取るのが良いのだと、一部の能力の高い合格者が声高に叫んでいます。正直うらやましいです。しかし自分にはできません。理論的には正しいと思うのですが、なんだかベットの大きさに合わせて足を切っているような感覚になりしっくりきません。
宿題難民
現在の教室にも塾から出される大量の宿題を持て余している子供がたくさんいます。ペースを乱され混乱している子供もいます。特に6年生になってから環境が急激に変わりテストに課題にと息つく暇さえありません。宿題が出来ていないことで家庭でも塾でも怒られ続けています。瞬発力のある能力の高い子供には適している環境かもしれません。しかし私のような淡々とこなしていくタイプの子供には荷が重い。
そんな子供の荷物をこそっとおろしてやるようにしています。バレたら保護者には怒られそうですが。勉強に背を向けて足を止めていた彼らはうつむきながらも目標方向に足を出すようになってくれます。足を出すようになればあとはそっと見守るだけです。彼らが頂上に立つ日まで。
少々勉強が苦手でも、うつむきながらも自分のペースで歩をひたすら進めていけば、いつかは頂上に到達します。その時に流れてくる心地よい風を今受け持っている生徒たちと味わえたらと思います。ぼちぼち行こか。